AIが検索だけでなく「タスクの実行」までも担う時代に突入しています。従来のブラウザ/検索エンジンでは追いつかない“情報探索+即時実行”のニーズに応えて登場したのが、Perplexity Cometです。
本記事では、Cometの機能・戦略・リスクを分かりやすく整理し、ITマネージャーや情報系ビジネスパーソンが「導入すべきか」「どう運用すべきか」の判断材料を提供します。
Cometとは?検索から“実行”へ進化するAIブラウザ
エージェント・ブラウザとしての定義
Cometは、単なるウェブブラウザではなく、AIエージェントを組み込んだ「ブラウザ+タスク実行」型のプロダクトです。ユーザーが閲覧しているページの文脈を読み取り、要約・分析・さらには次のアクション提案を行います。
従来の「検索 → リンクをたどる → 読む →判断」という手順を、「問いかける →AIが調べ・要約・実行」へと圧縮する設計思想です。
なぜ今、ブラウザなのか?
- ブラウザはユーザーの「入り口」であり、習慣として最も触るアプリ。ここにAIを組み込むことで、日常行動そのものを変えるポジション。
- Google Chromeが世界の大半を支配する中で、新興ブラウザとして差別化を図るには「AIで異なる体験」を提供する必要があり、Cometはそのアプローチをとっています。
機能とユースケース:Cometが“できること”
リサーチ特化型機能
- 「Deep Researchモード」:数十検索、数百資料をAIが読み込んで自動的にレポート生成。専門領域のリサーチに活用可能。
- ブラウザ内で複数タブ・複数ソースを参照し、まとめて分析。情報の“横断的探索”を効率化。
タスク実行・エージェント機能
- ページ要約、比較、スケジューリング、メール下書き、自動タブ操作など、「読む」だけでなく「やる」フェーズへと踏み込む機能。
- 例:マーケティング担当が「競合A・Bの価格をまとめてレポートして」などと指示し、AIが複数サイトを巡回・集約・構成まで行う。
導入・対応環境
- Windows/macOS向けにChromiumベースで提供されており、既存ブラウザ(Chrome等)からの移行も比較的容易。
- モバイル版およびプリインストール提携も進行中。
戦略的優位性 vs 競争環境
二極化するAIブラウザ市場
Cometは「リサーチ・深掘り型」、一方で ChatGPT Atlas等は「実行・ワークフロー型」として差別化が図られています。つまり、利用目的によって選ぶプロダクトが変わる構造になっています。
エントリーモデル:無料+有料(フリーミアム)戦略
Cometはコア機能を無料もしくは低価格で提供し、上位機能を有料で提供するビジネスモデルを採用しており、普及と収益化の両立を狙っています。
差別化ポイント:信頼性と情報精度
一部生成AIの課題である誤情報問題に対して、Cometは「ソース表示」「複数ソース集約」といった信頼性重視の設計を導入しています。
セキュリティ・ガバナンス課題:見逃せないリスク
新たな攻撃ベクトル:エージェント脆弱性
ブラウザにAIエージェントが深く入り込むほど、従来のウェブセキュリティモデルでは対応できないリスクが増えます。実際に、Cometで報告された「CometJacking」など、悪意あるプロンプトがAIに実行されてしまう脆弱性があります。
データ流出・アクセス権の暴走
AIがユーザーのタブやメール、スケジュールなどにアクセスする際、誤操作や悪用によって機密情報が漏れる可能性があります。監査ログやアクセス制御の設計が必須です。
導入ガイドライン(企業向け)
- エージェント機能をどこまで許可するか、プロファイル設計を明確に
- 機密情報・決済機能・アカウント操作はAI実行対象から除外
- 定期的なセキュリティレビューとモニタリング体制を設置
実践チェックリスト:導入・運用時に確認する15項目
| 項目 | チェック内容 |
|---|---|
| OS・バージョン | Windows/macOSの最新版か? |
| 既存ブラウザ移行 | ブックマーク・拡張機能の移行が可能か? |
| サインイン制御 | 社内アカウント/ゲスト制御が設定されているか? |
| 機能許可設定 | リサーチ/タスク実行の範囲が制御可能か? |
| 機密データ除外 | メール・契約書・決済情報がAI対象外設定になっているか? |
| モニタリング・ログ | AIエージェントの実行ログが取得できるか? |
| アクセス権限 | AIがタブ/拡張/ローカルファイルにアクセスしていないか? |
| セキュリティポリシー対応 | “CometJacking”対応ポリシーが定義されているか? |
| ユーザー教育 | AIブラウザ利用にあたってのガイドラインを周知しているか? |
| バージョン管理 | 新機能・脆弱性パッチが定期的に適用されているか? |
| 共有端末対応 | 共有PCでのAI実行制御ができているか? |
| モバイル展開 | 将来のモバイル対応を想定して戦略立案されているか? |
| ロールアウト段階 | 部門単位での試験導入フェーズが設けられているか? |
| 成果評価 | リサーチ時間削減・アウトプット品質向上など成果指標が設定されているか? |
| コストモデル | フリーミアム/有料版の切り替え条件・収益モデルが明確か? |
今後の展望:ブラウザ市場におけるCometの役割
- Cometの無料展開――2025年10月に全ユーザー向け無料化され、普及戦略が加速中。
- デフォルトプリインストール提携交渉中――モバイル端末への展開が進行。
- 市場構造のシフト――「閲覧」から「対話+実行」へ、ブラウザの定義が拡大。
- 競合他社の反応――Google/MicrosoftもAIブラウザ領域に本格参入予定。
まとめ:どんな組織・個人に向いているか、導入前に押さえるべきこと
向いている組織・ユーザー:
- リサーチ、分析、コンテンツ制作を日常的に行う専門職
- 情報の「質」と「早さ」が競争力となる部署・企業
- 新しいワークスタイルを導入したい先進的な企業
注意すべき状況:
- 機密データ・決済・契約操作などを伴う業務をAIに任せるには、セキュリティ設計が整っていないとリスクが高い
- AIブラウザ自体がまだ成熟期であり、導入には運用ルール・モニタリング体制が欠かせない

